頭の中身をprintf

おっさんITエンジニアの頭の中身を記述するだけのBlog。なお、基本コンセプトは「理系男子」。目標としているのはHellow World!以上の文字列をはてなブログに出力すること。最近、妄想ブログになりつつあるのが悩みといえば悩み。

峠道の午後

先日のBlogにも記載しましたが、dマガジンで複数の雑誌を購読しております。 atamanonakami.hatenablog.com

昨年のある日、dマガジンで某超有名月刊自動車雑誌が配信開始!とレコメンドがあったのです。テレビでもおなじみ(最近はBSで放送中らしい)と言えばクルマ好きな方はお分かりになりますよね。

もちろんすぐに定期購読を開始。あの雑誌も「出版」ではなく「配信」する時代なんだなあ、なんて思いつつ学生だった頃を思い出すのです。

コンビニに並んでいる自動車雑誌なら気楽に買えるけど、毎月1,000円ほど出費するのはちょっと気が引ける。本屋でパラパラ流し読みしてみたらなんか上品な誌面作り。コンビニの自動車雑誌とは違って、なんか外国の人が何人も登場しているみたい。そもそも自分とは縁遠い「ガイシャ」が最初から最後まで登場していてきっと自分がご贔屓にしている「ニホンシャ」は酷評されているはず。下手すりゃ厚手の本皮で作られたお財布や何十年モノのワインに機械式で手巻きの腕時計が登場して、このクルマにはこういった深みのある使い心地や趣きが全く欠けている。なんて学生の想像力では噛み砕けない辛口な論評がされているんじゃなかろうか?

なんだか読みたいのか読みたくないのかよく分からなくなってきたけど、要するに自分とはちょっと違う世界の人たちがどんな感性でどんなことを語っているのか少しだけ興味があるのだ。購入して読んでしまったら内容を理解して共感することができるのかもしれないし、できないのかもしれない。自分が暮らしている世界とは全く異なる時間軸や空間認識能力が渦巻いているかもしれない。勝手な妄想だが、例えば新車の試乗記だってこんな感じに違いない。ああそうだ、きっとこんな感じに違いないのだ。

「このオープン2シーターのハンドルを握り向かった先は地中海を見下ろすことができる海岸の峠道。その峠道は先日ジェノバで昼食時に出会ったガーリックがよく効いたカッペリーニパスタのように左右に渦巻いているように見えた。パスタ皿の上でいくつもの唐辛子の切片にパスタがからみつくのと同じように、山肌を複数のヘアピンコーナーが取り巻いていることなど容易に想像がついた。
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たが上り坂に差し掛かると、ムクドリの卵のように透き通った青色のボディを身にまとったこの2シーターは、まるでトマトソースの海からパスタをフォークとスプーンで取り分けるかのようにいとも容易く左右のコーナーを駆け抜けてゆく。パスタソースとして溶け切ることが叶わず残ってしまったトマトの果肉がソースの流れを妨げるように、断崖に残る岩塊がコーナーの先の視界を妨げたとしても決してアクセルを緩める必要はない。恐怖が頂点に達する前に、食後に差し出されたティラミスにフォークを差し込むほど簡単にコーナーを駆け抜けて次のコーナーを目の当たりにすることができる。

内装の作りは悪くない。カーボンファイバーで覆われたかのように黒光りするダッシュボードとタン革で覆われたシートは、白ワインで蒸し上げられたムール貝の深い紫色に輝く貝殻とその貝柱を思わせるほどに鮮やかだ。190mphまで刻まれたスピードメーターと控えめにレッドゾーンを主張するタコメーターの針はブラッドオレンジの果肉の色を放ちながら、ハンドルホイールの向こう側でタランテラのリズムを刻むかのように踊りだす。そしてそのタランテラのリズムに同調するかのように耳に届くのは、よく熱せられたフライパンに満たされたオリーブオイルに飛び込んだラムチョップが歌うかのような刺激的なエンジン音だ。
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ハンドルの左右にあるパドルシフトを立て続けに操作すると、パスタの層が重なるラザニアの中心にスプーンを差し込んだ時のような手応えを覚えながら8段トランスミッションがシフトダウンを繰り返し、まるでズッキーニの革をピーラーで剥くかのように滑らかにいくつもの上り坂にあるコーナーを撫でてゆく。やがて峠の頂上にたどり着きドアを開けた。ここまでナビゲーターシートの上で地中海に降り注ぐのと同じ日差しに見つめられ、すっかり体温が上がってしまったサンペレクリノの栓を開け口にする。だがその直後、このスパークリングミネラルウォーターの瓶に満たされている硬水の海の底から登り上がる炭酸ガスの泡の向こうで、2シーターはこう言っているように思えたのだ。ここで休んでいる場合かよ、まだこの先にはいくつものコーナーが波打ったフェットチーネみたいに続いているっていうのに、そいつらに挨拶もせずに帰るっていうのかい?

全くだ。ここで引き返していま来た道をまた拝んで帰るだけじゃあ、まるでマスカルポーネチーズが載っていないにもかかわらず切り分けられたピッツァを余計に一枚口に運んで喜んでいるようなもんだ。分かったよ、この先の下り坂を拝見して、また折り返してもう一度この峠道を楽しませてもらおうじゃないか。まだ前菜のバーニャカウダしか楽しませてもらっていないんだからな。

下り坂のコーナーの途中、ペンネのように短いトンネルをいくつかくぐり抜ける。そのペンネの中をくぐり抜けるたび、2シーターの心臓の音がアクアパッツァを造る鍋にたっぷりと白ワインを注いだかのように弾けたカンツォーネを奏でる。あるペンネの出口でカンツォーネを聞き終えた直後、タイトコーナーが待ち構えていた。思わずパルミジャーノチーズにナイフを差し込んだかのような感触で強くブレーキを踏みつけ強引にハンドル回すと、コーナーの外側にある断崖絶壁は職人がピザ窯の中でバジルを焦がさないようにとピザ生地を回したかのようにさらりと向きを変えた。たいしたものじゃないか。この身のこなしなら道路の向こう側の地中海へ間違って海水浴を楽しみにいくことも無いだろう。
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散々下り坂を楽しんだ後、サラダの上の生ハムを裏返すかのように鮮やかにUターンをして再び峠道を登り始める。だが先程のようにアクセルペダルを無闇に踏みつけたりはしない。地中海の透き通った群青色と、トマトとモッツァレラチーズが折り重なったカプレーゼのように続く山並みを楽しみながらゆっくりと道を進んだ。地中海から流れてくる潮風は、どこかからガーリックとオリーブオイルがフライパンの中でハーモニーを奏でて作り出すフレーバーを運んで来そうなほどに穏やかだ。

下り坂がもう終えそうな頃、気がつけば夕暮れが周りを包み、太陽からは大量のオレンジワインが地中海に注がれているように見えた。そのオレンジワインが2シーターのボディに飛び散ったのか、澄んだ青色のボディは少しだけオレンジ色に染まっている。惜しいとは思いつつもサンバイザーを下ろし、目に飛び込んでくる地中海の輝きを遮る。アスファルトの継ぎ目を迎えるたびにスローテンポを刻むタイヤノイズが一日のエンディングを予感させる。明日は洗車されすっかりオレンジワインも洗い流され、ミントが効いていそうな水色のジェラートをスプーンで整えたかのように滑らかなボディを取り戻すのだろう。今日はなかなか楽しい午後を過ごさせてもらった。そろそろ2シーターとお別れだ。

翌日、帰国にあたり搭乗した飛行機の窓の下に昨日至福のひと時を過ごした峠道が見えた。太陽から注がれたはずのオレンジワインはすっかり姿を消し、ムクドリの卵の色をしたあいつは空から見えるはずもない。
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なあ、ひとつ頼みがある。この次会うときはエンジンオイルとガソリンは俺の奢りで構わない。だからその代わりにまたご機嫌な峠道を選んでおいてくれ。峠道の麓や頂上に退屈な土産物や採れたてのオレンジが売っている店など無くて構わない。曲がり道が延々と続く山道さえあればそれだけで楽しむことができるじゃないか。ああ、間違っても高速道路なんかは選ぶなよ?あれほど退屈な道は、世界中何処にでもあるんだからな。

じゃあな。また会おうじゃないか。2シーター。」

えっとお、ハラ減ったななぁ。○○Warkerとかも帰りの通勤電車の中で読むとお腹が空いてしょうがないのよね。この自動車雑誌を読むのは夕食後じゃなきゃ、ダメだこりゃ。