頭の中身をprintf

おっさんITエンジニアの頭の中身を記述するだけのBlog。なお、基本コンセプトは「理系男子」。目標としているのはHellow World!以上の文字列をはてなブログに出力すること。最近、妄想ブログになりつつあるのが悩みといえば悩み。

一本道

2019年3月から新東名高速道路の一部区間で最高速度が120km/hに引き上げられたの、皆さんご存知ですか?

詳細は検索エンジンと他サイトをご確認いただくとして、コレってものすごいことだと思うのです。何がスゴイって規制ばかりの自動車道路の上で、ドライバーに判断を任せる!と宣言してくれたと思うのです。

他サイトをご覧いただければ分かりますが(他力本願)、大型トラックは今まで通り制限速度80km/hのまま。なのでこの区間を運転する場合は速度差40km/hの普通車、大型トラックが入り交じる50kmの区間を「あとはドライバーに任せた!」と宣言してくれたのです。

規制する側が無責任だとは思いません。120km/hで走行可能な高速道路インフラをハードウェアとして準備してくれて、運転マナーや危険予測といったソフトウェアをドライバーに任せてくれたのです。ドライバーはこの区間を時に80kn/h、そして時には120km/hと臨機応変に状況判断し都度適切な判断を要求されるのです。いやそんな適材適所な判断ができるドライバーさん、惚れるぜ。

この制限速度120km/hの区間を惚れさせるほどに駆け抜けるには、混沌とした毎日をスマートに駆け抜けるスキルを持ち合わせる必要があるかもしれません。ガチガチに規制された毎日なんて息が詰まるではありませんか。そう、そもそも高速道路はサラリーマン人生の縮図でもあるのです。

一般道から高速道路に進入するときはまるで新入社員の気分で意気揚々としながらアクセルを踏み込むのです。この先どのような道が広がっているのだろう?いや高速道路と言うくらいだから、さすがに目的地までたどり着くことは最低限でもできるだろう。そのために高価なETCを購入しつつこの高速道路に入ることを決意したのです。
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進入して辺りを見回してみると、まあまあ広い職場じゃないか。まずは少し様子見、と思っていたら突然真っ白なスーツを纏い昼間からライトを光らせサングラスを頭上に載せたガイシャにブチ抜かれました。この会社のエリートクラスなのでしょう。テレビドラマにしか出てこないような人物でしたが、本当にいるんですね。

改めて周りを見渡すと喫煙室で延々と黒煙を吐き出していそうなダンプトラックや、必死にチームをけん引しようとするチームリーダーのトレーラーヘッド。そのチームリーダーに引きずられながら、重たい荷物を載せつつ聞こえないように愚痴をこぼしながら走るトレーラー。突然右へ左へ予期せぬ挙動を見せても全く自覚のないポップな色の新しい軽自動車や、声をかけることは決して許さないと暗黙のうちに認めている黒塗りのセダンなど、高速道路には様々な人物がいることに気づきます。

そうこうしているうちに、後ろを走っていたバイリンガルで実力のある同期入社の同僚に追越車線からあっさり抜かれてしまいました。既に競争は始まっているのです。この高速道路の上でボヤボヤしていてはあっという間に置いていかれてしまうのです。

とはいえ、正面を走る初老のベテランが比較的遅い速度でフラフラと行く先を遮るかもしれません。時にはそんな先輩の振る舞いをしっかりと眺め、この高速道路の上でどのような時にフラフラとするべきか学ぶ必要もあるかもしれませんね。無理をして追越車線ばかり走り続けていると、体を壊してしまうかもしれませんよ?

いやでも面倒だ、ここで一気に追い越してしまえとアクセルを踏む足に力を込めようとしたとき、不意に横を追い抜いていった名前も知らない隣の部署の人が、真っ黒なスーツを纏った社内コンプライアンス担当者にサイレンで止まりなさいと命じられる姿を目の当たりにしました。やはり高速道路の上での振る舞いには気をつけなければなりません。高速道路の上では頑張る時とそうでもない時を適切に使い分ける必要があるようです。

しばらくすると大勢が渋滞で足止めをやむなくしています。リーマンショックに代表される景気の後退でしょう。ここで見切りをつけて近くの出口から高速道路を出ていく人もいます。高速道路を走る限り、また出口から出ていった人たちと仕事をする可能性は限りなく低いと思われます。しかし渋滞を目の前にして高速道路を降りていく人達は、案外みんな嬉しそうな顔をしているようにも見えますね?収入の面で優遇されたりするのでしょうか?
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おや、先ほどの実力ある同期入社の同僚は渋滞を見越してか手前のインターチェンジで空港方面に抜けていったようです。何処を目的地として目指しているのでしょうか?やはり得意の語学力を活かした道を走るのでしょうか?語学力はともかく、左ハンドルの運転は大丈夫なのでしょうか?

渋滞を抜けるのは一苦労でした。前の同僚が「少しだけ」進んだら、慌てて自分も「少しだけ」進まなければなりません。前の同僚が「もう少しだけ」先に進んでから自分も前に進もう、と止まっていたら後ろからライトがピカピカと光ります。どうやらこんなに渋滞しているのに進みが遅いとお叱りを受けているようです。この渋滞の中で、どれだけ進むことができると想定しているのでしょう?

さてようやく渋滞を抜けることができたところでのんびりと走ろうとしたら、後ろから随分と威圧的に追いかけてくる白いSUVがいます。ルームミラーでよくよく運転している人の顔を見てみると上司ではないですか。先ほどの渋滞もあり今季売上が足りないのでしょう、とにかく儲けろ、利益を上げろと必死の形相です。働き方がちょっと昭和な感じもしますが。

ただその上司もこの春は娘さんが高校受験。住宅ローンだってまだ半分も返済できていないでしょう。家族を持ち必死なのです。ただサービス残業とかはカンベンですよね。

なんとかSUVの上司をやり過ごしたところである同期から次のSAで久しぶりに会わないか、とお誘いを受けました。最近のSAは立派です。これもSAの経営が民営化、自由化されたおかげと聞きました。先ほどのSUVの上司のような人達が頑張っているからこんな立派なSAができたのかもしれません。ああ、同期と会ったときはノンアルコールでお願いしますよ?

同期と入社当時の話や近況の話題に華が咲きます。そうそう、あの空港方面に走っていったアイツを知っているか?と同期が言い出しました。やはりその話題になったかと思いながら話を聞くと、噂によればやはり今は外資系企業のテクニカルオフィサーを今は努めているらしく、年収は自分たちの軽く10倍は超えているとのことです。

あの時渋滞を目の前にして、自分も空港に向かえば良かったか。いや自分には外国語を話す技術が圧倒的に足りない。やはりこの高速道路を進むしか方法はないのではないか、などと同期と別れたあとも何度も同じ事を繰り返し考えてしまいます。

目の前にはインターチェンジがいくつか控えています。車線変更エージェントに声をかけて、自分が必要とされている目的地に行く先を変えてしまっても良いのではないか?そのほうが収入も増えるのであれば越したことはない。ただその先に大渋滞が待っている可能性もゼロではない。突然の災害に見舞われ高速道路から降りることを余儀なくされるかもしれない。どちらの目的地が自分に取って適切なのかは誰にも分かりません。自分で決めるしかないのです。
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それにしても気がつけば随分と遠くまでやってきました。周りを一緒に走る顔見知りの同僚も少なくなってきましたね。社内コンプライアンス担当者にサイレンを鳴らされたあの人はまだこの高速道路を走っているのでしょうか?家族のために白いSUVで猪突猛進する上司とも部署が別れてしまいました。あの上司は体を壊すことなく今も白いSUVを運転しているのでしょうか?お子さんが大きくなったから白いミニバンになっているかもしれません。

ふと目を横に向けると田園風景や雲を仰ぐ山並みが見えます。もうこのへんで出口から降りてしまおうか。ここまでずっと高速道路を走ってきたけれど、この下の一般道には何かあるのだろう?美味しいパン屋さんや蕎麦屋さんがあるかもしれないし、採れたての新鮮な野菜も売っているかもしれない。高速道路とは違い、路肩にクルマを停めてハザードランプを点滅させ、路肩に咲く満開の桜をしばらくの間眺めても注意されることは無いのではないか?
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この先まだ高速道路を必死になって走り続けるのだろうか?またあの白いSUVの上司に後ろから追いかけられるのではないか?いや逆にこの先自分があの上司のように若手を追いかける日が来るのではないか?いっそのことこの道を降りて一般道をゆっくりと走るのも悪くないのではないだろうか?一本道ではないから道に迷うかもしれない。突然の道路工事で通行止めになるかもしれない。大雨で冠水してしまうかもしれない。そんなことになるくらいなら、このまま高速道路を走り続けたほうが良いのではないか?相変わらず想いは頭の中でグルグルと回り続けながらも高速道路を進みます。

おや。随分と大きな緑色の案内板が見えてきました。

「定年出口 この先5km」

お疲れ様でした。どうやらサラリーマンのゴールのようです。ここまで迷いながら色々とありましたがいかがでしたか?幾多の渋滞もありました。相手が社内の同僚なのに後ろから煽られることもあれば、逆に行く先を妨げられることもありました。頑張って走り続けたからお客様に仕事が早いねと褒めてもらったこともあれば、逆に高速道路を走っているのに何故遅いんだ!と怒鳴られたこともありました。でもここまでたどり着くことができたのです。本当にお疲れ様でした。あの定年出口を降りたら、一般道で自由に羽を伸ばすことができます。さあ明日からなにをしましょう?

天然酵母のパン作りや、畑で取れた蕎麦を打ってもかまいません。家庭菜園や市民農園を借りて野菜作りでもかまいません。満開の桜と雲ひとつ無い青空をバックグラウンドに見上げながら、これこそは!という写真を撮っても良いかもしれませんね。書道の道でも極めましょうか?庭に陶芸用の窯でも作ってしまいましょうか?あの出口の下り坂を降りれば明日から自由なのです!さあ!降りましょう!!

あれ?

「再雇用入り口 この先右折 200m」
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うん。

さて。

どうしましょう?

明日からまた毎日100km/hで、走りますか?